厚生労働省09年金財政検証

社会保険労務士 高橋裕典先生

緊急インタビュー

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この解説の対象になっている、厚生労働省の発表資料はこちらです。

平成21年財政検証関連資料(1) 年金制度における世代間の給付と負担の関係等 平成21年5月26日
平成21年財政検証関連資料(2) 厚生年金の標準的な年金の給付水準の見込み等 平成21年5月26日
国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し(概要) ー平成21年財政検証結果ー 平成21年2月23日

 

 こんにちは。社会保険労務士の高橋です。

 今日は、2009年5月26日に厚生労働省から年金の財政検証をふまえて試算額が発表されたことについて少しそのことと、今後の展望についてお話しさせていただきたいと思います。

 まず、財政検証は何なのかというところからですが、平成16年に年金の大きな制度改正がございました。 そこでは、おおむね5年に1回年金の財政の計算をして向こう100年安心の制度を維持していこうということになったわけですね。 そして、16年の改正から5年経った平成21年がちょうどこの財政検証の年に当たっていた。そしてその財政検証、この結果が平成21年5月26日に厚生労働省から発表になった。ということなんですね。そしてこの試算結果に使われたさまざまな数字が、見込みが甘いのではないか、楽観的な数字、挙句の果てには作った数字ではないかという批判等々が相次いだわけですね。

 厚生労働省の方で試算をした数値としては、まず合計特殊出生率、女性が生涯何人子供を産むんですかという数字なんですね。これも3段階に分けているんですね。高い数字になった場合、それから真ん中の数字、それから低いものと。3段階に分けてその中の真ん中を中位という形で位置付けているんですね。そして合計特殊出生率を中位として試算に使った数字は、1.26という数字なんですね。これは、今現在1.3をちょっと超えているくらい、若干の回復傾向にはございます。この1.26という合計特殊出生率については、妥当な数字ではないかなと思うんですね。おそらく他のメディアですとか研究機関等もここはそれほど多く批判の的にはなっていないんですね。

国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し(概要)
ー平成21年財政検証結果ー 平成21年2月23日
13Pより。

 ただ一番問題視されているところとしては、経済成長率のところの数字が、やはり高めではないだろうか、という指摘が多いわけですね。まず、経済成長率を高い水準、中くらいの水準、低い水準ということで3パターン用意されていたわけですけれども、そのうちの中位、真ん中のレベルでの経済成長という数字を試算の基本ケースというところで使っているんですね。そしてその数字を見てみたいと思うんですけれども、まず物価上昇率、これは1.0%という事で平成16年の時に使った数字とまったく同じ、若干高い低いかというところはあるかもわかりませんけれども、1%、2004年の見込みと変わっていないということです。ここはそれほど問題ではないのかもわからないです。

国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し(概要)
ー平成21年財政検証結果ー 平成21年2月23日
5Pより。

 そして、名目賃金上昇率というのが、今回厚生労働省の基本試算のケースでは、2.5%という数字を使ってきているんですね。2004年の時は2.1%という事で、この実質賃金上昇が見込まれていないような社会の中で、0.4ポイント増しで数字を出してきた。

 そして、さらにもうひとつ経済成長率として使っている数字として、運用利回りというところがあります。今回の試算の中では、運用利回り4.1%という数字を厚生労働省の方は使ってきております。2004年の時は、3.2%という数字を使ってきたわけなんですけれども、0.9ポイントも運用利回率を上げて試算結果を出してきている。という事で、今現在の状況を考えると果たして今後このような成長率で上がっているのか、というところに批判が集中してきたわけですね。

 そして、さらにこの試算の中、標準世帯というところをモデルケースにして先ほど申し上げた数字、合計特殊出生率の1.26% 、物価上昇率の1.0%、名目賃金上昇率の2.5%、運用利回り4.1%として仮定して、標準世帯で試算を出すと所得代替率これが50.1%になりますよ、という結果なんですね。そして、日本の年金の年金制度、所得代替率、現役時のお給料の50%以上を保証しますよという事をうたっておりますので、かろうじて今回の基本ケースの試算ではその数字をクリアしているという結果にはなったわけですね。

国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し(概要)
ー平成21年財政検証結果ー 平成21年2月23日
5Pより。

 ただここの標準世帯というところも、やはりちょっと疑義があるんですね。標準世帯という定義付のところですね。夫が20〜60歳の40年間厚生年金に加入して、妻も同じ期間専業主婦として過ごしたケースというのを標準世帯と厚生労働省の方ではしているんですね。でも実際のところこのようなケースに該当するのが標準世帯なのかどうか、というあたりに少し疑問が残るわけですね。20〜60歳の40年間厚生年金の夫、妻はその期間専業主婦のみと。もちろん単身世帯ですとか、20歳以降のご結婚等もありますので、これをモデルケースにすること自体、若干の疑問点はあるんだと。

 そして先ほど申し上げた通り、この基本ケース標準世帯で先ほど申し上げた数字を使うと所得代替率50.1%。当然、他の世帯構成の組み合わせを見ていくと50%に満たないというようなところもございます。何とか50.1%に数字を持っていったんではないかという印象が少しはあると。 ただ、厚生労働省の会見の中でもあったように、景気が悪い時ばかりではないわけです。 また、合計特殊出生率も若干ではありますけれども、回復傾向もしくは一時的な傾向かもわかりませんけれども、下げ止まったような形も見えてくるということになる部分も、向こう100年の安心プランという事を考えれば、多少楽観的な見方の数字が入っていると、許容していい部分なんではないかなというところは、少し私も考えるところではあります。

 そして、やはり今回の試算は、説得力という点ではどうしても欠ける部分がある。というのは、経済成長率の部分の数字に説得力がちょっと欠けているんだろう。ということですね。ただ、今後景気が回復してくれば、あの時の数字は誤りではなかったのかな、という時代が来るのかもわかりません。逆にやっぱり甘すぎたんじゃないの、という批判が再現することも当然考えられます。

 また、5年に1度、この財政検証による見直しがございますので、次は平成26年頃、少なくても5年に1回ということですので、平成26年頃にまた財政検証と試算があるかなと。後は、やはり100年安心の年金を見通すということ自体が、やはり非常に難しいことですので、現代社会においては不可能に近い部分というものが、あってしかるべきところなのかなというふうには、私も思うところもございます。

 そして、今後の展望的な部分、あくまで私見でございますけれども、少しお話をしてみたいと思います。

 現在、合計特殊出生率、これが若干の回復傾向がみられるもののということですけれども、やはりその数字が2を下回るようであると人口がどんどん、どんどん減っていく傾向になるわけですよね。結局、夫婦、夫、妻がいて子供が一人ということになると、どんどん、どんどん世代間扶養の考え方に立つ年金制度の支え手、これが減っていくことになるわけですので、やはり今の年金の制度、世代間扶養の考え方だけではどうしても耐えきれない部分が出てくるかと思います。やはり抜本的な年金制度改革が必要になってくるんではないかと。 また、きちんとそれを議論しなければいけない時期にきているんではないかなと思うわけです。

 その他、現在各政党で議論されている最低保証年金、基礎年金の部分ですね。ここは、多少構想の違いは見られますけれども、基本的には税金を投入する形で基礎年金部分で高齢者世帯の所得保障を行うという点は、共通なわけでございます。なんとかこの部分早期の実現を期待したいところでございます。ただやはりどの政党の議論も財源をどこから集めるんですか。というところがやはり問題になっているわけですね。社会全体で高齢者世代を支えるという考え方に立つのであれば、消費税の増税、それから所得比例の社会保障税などの導入ということも、ひとつ望ましい形ではないかなというふうに考えているわけですけれども、若干この消費税の増税等については、やはり所得の高い方、低い方、皆さん一律で税率がかかりますので、所得に対する経済的な観点からすると、必ずしも妥当ではないという部分が含まれているかと思います。

 あと、もう一つ大きく改善する必要がある部分ではないかと思われる部分が、国民年金の第3号被保険者の制度ですね。現在、国民年金の第3号被保険者は保険料負担がない。そして3号被保険者であった期間は保険料を納めていないにも関わらず、保険料を納めたものと同等の金額が、老齢基礎年金の額として算出されるわけですね。この部分をやはり保険料の納付済期間という取り扱いではなくて、保険料全額免除期間として税金の部分だけは面倒を見てあげようと。そして残りの部分は、保険料を追納していく形で満額の年金がもらえるような形に、少しやはり負担をお願いしないといけないという状況になっているんではないかな、というふうに思うわけです。そうすることで、今現在基礎年金拠出金というのが出てる部分、これを別の形で年金の財源に回すということもひとつ考えられることではございますので、この第3号制度、負担と給付のバランスというところから考えれば、やはり保険料負担をいただくのが筋論ではないかなと思うわけですね。

 以上、簡単ではありましたけれども、2009年の財政検証を受けた厚生労働省の試算、それから、今後の制度改正の展望というところで少しお話をさせていただきました。 それでは、今後の年金制度が良くなっていく事をお祈りしております。

国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し(概要)
ー平成21年財政検証結果ー 平成21年2月23日
19Pより。

 

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